【結論】「誰が言ったか」ではなく「なぜそうなるか(理屈)」だけを信じろ

家づくりにおいて、特定の誰か(有名な建築家、人気ブロガー、敏腕営業マン)の言うことを100%鵜呑みにするのは危険です。たとえその人がどんなに素晴らしい実績を持っていても、です。
なぜなら、家づくりには「たった一つの正解」は存在しないからです。
ある人にとっての正解(例:全館空調で年中一定温度)は、別の人にとっては不正解(例:窓を開けて風を感じたい派には苦痛)かもしれません。また、北海道で必須の設備が、大阪ではオーバースペックで無駄金になることもあります。
今、あなたは情報の海で溺れかけているかもしれません。 「断熱材はウレタンが良い」「いやグラスウールだ」 「第1種換気が必須だ」「第3種で十分だ」
これらに惑わされないための唯一の方法は、誰が言ったかではなく、なぜそうなるかという「理屈」を理解することです。 今回は、情報の真偽を見極めるための「3つのフィルター」を紹介します。
1. 信者になると失敗する理由

勉強熱心な方ほど陥りやすいのが、特定のインフルエンサーや建築家の「信者」になってしまうことです。 「〇〇先生が動画で言っていたから間違いない!」 こう思ってしまった瞬間、思考停止が始まります。
しかし、私が参考にしている複数の優良ブログ(高性能住宅系)を見比べても、実は細かい部分では意見が食い違っていることがよくあります。
- A氏は「トリプルガラスはコスパが悪いからペアガラスで十分」と言う。
- B氏は「これからはトリプルガラスが標準になるべき」と言う。
もしあなたがA氏の信者ならペアガラスを選び、B氏の信者ならトリプルガラスを選ぶでしょう。でも、それはあなたの家の環境に合った選択でしょうか?
大切なのは、彼らの結論をマネすることではなく、彼らがその結論に至った「計算過程」を知ることです。
2. 正解を見つけるための「3つのフィルター」

入ってくる情報をそのまま飲み込まず、次の3つのフィルターを通して濾過してください。そうすれば、自分にとって有益な情報だけが残ります。
フィルター1:「事実(Fact)」と「意見(Opinion)」を分ける
これが最も重要です。 ネット上の情報の多くは「個人の感想(意見)」です。
- 感想:「この家はすごく暖かいですよ!」
- 事実:「この家は外気温0℃の時、無暖房で室温15℃を維持しました」
「暖かい」という感覚は人それぞれです。寒がりの人の「暖かい」と、暑がりの人の「暖かい」は全く違います。 一方、温度やUA値、C値といった「数字」は嘘をつきません。
「結露しませんでした!」という口コミも、その人が加湿器を使っていたかどうかで変わります。 形容詞(すごい、快適、高い、安い)で語られている情報は話半分に聞き、数字や物理現象に基づいた「事実」だけを抽出してください。
フィルター2:発信者の「ポジション(立ち位置)」を考える
その情報を発信している人が、どういう立場の人か考えてみましょう。
- 大手ハウスメーカーの営業マン: 自社の家を売りたい。「気密測定は意味がない」と言うのは、自社が気密を取るのが苦手だからかもしれません(ポジショントーク)。
- 家を建てた施主(ブロガー): 自分の選択を正当化したい心理が働きます。「床暖房はいらなかった」と書くのは、自分が採用しなかったことを後悔したくないからかもしれません。
- 第三者の専門家(ホームインスペクター等): 比較的公平ですが、彼らにも「自分の知識を売りたい」という意図はあります。
「この人はなぜ、この情報を発信しているのか?」 その裏側にある利益や心理を想像するだけで、情報の偏りが見えてきます。
フィルター3:地域の「気候区分」を確認する
日本は縦に長い国です。 北海道(1地域)の常識を、九州(7地域)に持ち込むと、暑すぎて住めない家になります。
例えば、「基礎断熱」という工法。寒冷地では水道管凍結防止のために必須級ですが、シロアリ被害が多い温暖な地域で採用する場合は、厳重なシロアリ対策とセットでなければリスクが高まります。
ネットで見た情報が、「どこの地域(何地域)の話なのか」を必ず確認してください。 あなたの建設予定地が東京(6地域)なら、北海道の断熱仕様をそのまま真似するのは、ダウンジャケットを着てサウナに入るようなものかもしれません。
3. 三角測量で情報の精度を高める

では、具体的にどうやって情報を検証すればいいのでしょうか。 おすすめは「情報の三角測量」です。
一つの疑問(例:第1種換気を採用すべきか?)に対し、以下の3つの視点の情報を集めてください。
- 肯定派の意見: 第1種換気を推奨している人のブログや動画。「熱交換で省エネになる」等のメリットを知る。
- 否定派の意見: 第3種換気を推奨している人のブログや動画。「ダクトの汚れがリスクだ」等のデメリットを知る。
- 中立的なデータ: 公的機関や建材メーカーが出している数値データ。交換コストやメンテナンス頻度などの客観的事実。
メリットとデメリットの両方を知り、さらに客観的なコストと比較する。 その上で、「我が家はメンテナンスが苦手だから、熱ロスはあるけど掃除が楽な第3種にしよう」といった具合に、自分たちのライフスタイルという「最後の重り」を乗せて天秤にかけるのです。
これが、情報の鵜呑みではない「賢い選択」です。
まとめ:船長はあなた自身である

今回のまとめです。
- インフルエンサーの「信者」になってはいけない。 思考停止は失敗の元。
- 「すごい・暖かい」等の形容詞は無視し、「数字・事実」を見る。
- 発信者の立場(ポジショントーク)と、地域差(気候区分)を考慮する。
- メリット・デメリット・データを比較し、最後は自分たちの生活スタイルで決める。
家づくりのプロたちは、あくまで「アドバイザー(航海士)」です。 あなたの家の「船長」は、あなた自身です。 どのルートを通るか、最終的な決定権と責任は船長にあります。
情報を正しく処理できれば、営業マンの言葉に惑わされることも、ネットの口コミに一喜一憂することもなくなります。
さて、情報の取捨選択ができるようになったら、次は具体的な「法改正」の話を知っておく必要があります。 次回は、**「これから建てるならZEHは当たり前?2025年以降の省エネ基準義務化」**について解説します。 これを知らずに建てると、数年後に「法律違反レベルの古い家」扱いされてしまうかもしれない、資産価値に関わる重要なお話です。



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